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ぱー
waimai
RisuPon
ぽ
メイ
あやちゃん

インタァン

『私は将来、今一緒に演劇を作っている人たちと劇団を立ち上げたいと思っています。

演劇をやっていきたい理由を言い表すのは難しいですが、ずっと表現者でありたいということになるのだと思います。また、今まで公演をやってきた中で、私の演劇、演技に対する考え方や大事にしたいことは変化しています。2018627日から30日まで上演した、「朝の金魚、夜の電話」という公演で、その考え方はまた少し深みを増したように思います。

武蔵野美術大学校内で上演したので、場所代はゼロ、メンバーは8人という少人数です。私は、45分の二人芝居のうちの役者の一人でした。北海道に住む女子高生と金魚の物語で、未知なる外の世界に踏み出すのを恐れる女子高生の電話と、絶対的に内の存在である金魚の一人語りで物語が進んでいきます。ほとんど電話しかしない役で、演じることについて純粋にとても苦しめられました。思うようにできなくて、苦しいと思えば思うほど演劇を好きになりました。作品を生む苦しみは、その呼吸を目の当たりにした瞬間に報われます。そして、いつかキラキラした瞳で演劇をやっている誰かを羨ましがるのは絶対に嫌だと思いました。また、デザインとファインの違いのも似たものがあるのですが、私は表現者にはなれないと、ずっと思ってきました。でも、役者として舞台に立っている私は確かに表現者としての私だと気付き、表現者になりたいと強く思いました。』

とある劇場運営のインターンシップのエントリーシートに書いた文章の一部だ。

地点という劇団の役者の熱量に圧倒され、関わった公演が終わり、私の演劇に対する熱が沸騰中の頃に書いた文章なせいか、かなり情熱的である。ごめんなさいね、今一緒に演劇を作っている皆さん。ちょっとびっくりしたでしょ。劇団立ち上げたいなんて。でも、思うだけなら自由じゃないですか。書くだけなら自由じゃないですか。書いちゃいました。

劇場運営って言ったら、劇団で言う制作のポジションに当たるようなことなんだと思うけれど、私はその経験はないし、受からないかなと思っていたら、書類選考を通って、面接の日程が決まった。なんだか、この勢いと熱だけでも、誰かに伝わったような気がして、嬉しかった。

帰りは何をお土産に持って行こうかな~って思いながら、面接会場まで行った。ある程度、どうしてこのインターンシップに参加したいかと、演劇をやりたい理由なんかを頭の中で整理して、あとはその時に喋ろう。面接で大事なのはオーラだ。醸せ。オーラを。とか思いながらガラス張りの部屋に入る。小柄で表情の豊かな、年代でいったら今演劇で活躍している役者さんくらいの女性だった。

「○○○編集部でアルバイトしてるんだね。へーじゃあ将来はそういう道に?学科も、デザインだし。」

それが最初の一言だった。

オイ、俺は劇場のインターンシップに来てるんだぜ。最初に話す部分そこなの?あんだけ情熱的な文章と、公演の写真まで付けたやろが。最後まで読んだんか?劇団立ち上げたいとまで書いとるじゃろが!マァマァマァ。どうせお役所の人。人事だかなんだか知らんけど、そういうところしか見ないんだ。「英検2級」(かろうじて持ってる資格がそれだけだったので書いた)とかについてあとですっごい聞かれるんだろう。

「そうですね。大学に入ったきっかけは編集者になりたかったからなんですけど、でも今は演劇を続けたいと思います。」

「なんで編集者じゃないの?せっかくバイトしてるのに。」

「バイト始めてわかったことなんですけど、紙って残念ながら衰退していってるんだなって感じる部分とかもあって。イメージしていたものと違うなって感じたりしています」

「いやだってそれで行ったら演劇の方が衰退してると思うよ。本当に。」

「でも、それでもやりたいって思ってしまうんです、演劇って」

「ハッハ(笑)そうなのぉ?」

この人は一体どういうポジションなんだろうか。演劇が好きなのか、嫌いなのか、なんとも思っていないのか、何なのか。

そのあとに、今回のインターンシップで仕込みと本番でやってもらう仕事内容について説明があった。え?これって採用決定してるわけじゃないよね?こんな早く仕事内容の説明があるわけ?

「私はこのインターンの担当になって三年くらい経つんだけど、今年は人数が結構多くて。でも、いつもならここに書いてあるように『多少の制作経験がある方が望ましい』ってあるでしょ。その条件に満たしてない人は切っちゃって三分の一くらいに面接に来てもらうんだけど、今回は半分くらい面接まで来てもらってるわけ。なんでかっていうと、劇場や演劇の現状を知る機会って無いからなの。あれよね、あなたの学科って、舞台とかの学科じゃないわよね。」

「そうですね。ムサビには舞台関係の学科もありますし、舞台や美術館のマネジメントをする学科もありますが、私の学科ではそういったことに関することは教わらないです。演劇をやりたいというのは、私の学科ではどちらかというと異色です。」

「そうよね。うちでも武蔵美の人いるけど、この学科はあまり聞いたことがなかったから。でも演劇を専門にやってるコースとかでも現状を知る機会って意外とないのよね。だからこうして話をして知ってもらおうっていう活動を、地道にやっているわけ。だから今演劇とか劇場に質問があったら、なんでも聞いて。」

ちょっと正直自分の今置かれている状況がわからないんだけど、私はどうやら質問をするべきらしい。エッと・・・・・・

「思い付かないようだったら今私がちょっと言いたいことを言っちゃうと、私はここに来る前は〇〇芸術劇場にいて、その前は青年団っていうところに入ってて。知ってる?」

「存じ上げてます、好きな女優さんがいます」

「えー誰。」

「その人が出ている演劇を二本見たことがあって、本当にすごいと思いました。名前ちょっとど忘れしちゃったんですがままごとに出てました」

「もしや〇〇?この人?〇〇喜ぶよ~」

「あっちがいます」

「あ本当。まそれは置いといて。私は一回就職活動をした方がいいと思う。就職って今しかできないから。今興味のある分野でそれをもっと広げて、やってみた方がいいと思うの。学科もデザイン科だし。演劇にあなたが求めてるものが、例えば広告代理店とかにもあるかもしれないし、そっちも楽しいって発見できるかもしれないし。それならそれでいいじゃない。あなたは作や演出がやりたいの?」

「やりたいのは役者です。でも劇団を立ち上げるってなったら役者だけでなく各分野の人間を集めなくちゃいけなくて、そういう時に私はもっといろんなことを知っていなきゃいけないって思いました。だからやりたいんです。運営のこととか、仕込みがどいう風に行われていて何を考慮しなきゃいけないのか、演劇の内容以外の様々なことについて私は知らなすぎると思いました。知りたいんです。劇団を立ち上げるにしろ立ち上げないにしろ。」

「うーん。作や演がやりたい人には言わないことなんだけれど、今あなた劇団を立ち上げたいって言ってるけど、劇団形式で演劇をやっているところって本当に少なくなってきているし、難しいの。地点みたいに劇団としてまとまってやっているのは珍しくって、チェルフィッチュやハイバイやなんかも、いろんなところから役者を集めてプロデュース形式をとっている。本当に演劇で食べていくって大変なのよ。お金もなくなるし、バイトもして演劇もやる生活になると思う。本当にね、お金がないって切実でね。お金がなくなると人間ってどんな風に変わるかわからないのよ。私は絶対に就職をお勧めする。演劇をやっていくにしても、ある程度のマナーは必要なの。人との話し方とか、名刺の渡し方1つでも丁寧にやってくれる企業はある。そういう常識を知っていないとどこに行ってもダメなの。昔はね、演劇バカ、いい意味で。例えば誰々とか誰々みたいな人が時代を作っていったけれどは今はそうじゃない。」

「私は劇団を立ち上げたいと思っていますが、正直それはほとんど夢のような話です。それに私は演劇バカにはなれません。そうなりたいとさえ思います。でも私は演劇がなければ死んでしまう訳ではありません。それに私には返すべき奨学金があります。就職したいと思う企業だってあるし就職をしないという選択肢がない訳じゃありません。演劇って、何歳から始めても遅くないって思います。だから一回就職をしても、演劇を諦めなければまた戻ってくることはできると思っています。それでも演劇をやっていきたいと書いたのは、私はお金とか時間とかそういう問題のことを考えて、演劇という選択肢を初めからゼロにしていました。でも諦めたくないって、思ったんです。地点を見て。最近やった公演によって。だからこれからちゃんと向き合います。諦めないためにも。」

「そうなのね。よかった。じゃあもう質問がなければ、これで終わるけど。就職っていう選択肢はもう無くしているのかと思った。最近の若者は現実を見ていて良いね。」

最近の若者は現実を見ていていいね。

バカにされてる?

私って現実を見ている?私の現実との向き合い方って、そんなに寂しいものですか?私の目にはそんなにも光が無いですか?見るものは現実しかないじゃ無いですか。最近の若者だって昔の若者だって見ているのは現実だけだよ。演劇バカだってそうでなくたってみんな現実しか見つめるものはないんだよ。

就職を進められることも、演劇の現実を教わることも、それ自体は私は受け入れなきゃいけないと思う。でも、それをあの場所で、わたしは私の抱える現実と向き合うために足を運んだあの場所でハエ叩き的に告げられたくなかった。てか名刺の渡し方とか一般的常識とか人並み以上に知ってんだわ私は。その辺のチャランポランと一緒にすんなマジでこちとら大人の世界で仕事してんじゃゴラ。

面接の後半は正直テーブルの下で足を組んで見えない抵抗をしていた。そして帰りに買おうと決めた胡麻団子について考えていた。そしてこの面接は、演劇を続けることがどんなに大変か知らない若者に釘をさすために行われたものであることについて考えた。

2時間かけて武蔵野美術大学に帰って来た。そこには愛すべき演劇バカ達がいた。きっとこの人たちは今食べている胡麻団子のゴマが歯に挟まったことをテーマにして演劇が作れるし、奈良県に行ったら大真面目に作品を作り出すし、きっと演劇を続けて行くんだろうし、ずっと現実を見ている。演劇って、人間と人間が作るものなんだって、すごく思う。その人を縦に割ったときに、どのくらい中身が詰まっているかみたいなことが、本当は演技とか声とか、そういうこと以上に必要なんだと思う。人間と人間が作るものだから。この場所にいたいと思うことは、それだけでそんなに否定されなくちゃいけないんでしょうか。そんな場所でこの面接の話をしてしまった事を後悔している。私よりももっと傷つくはずだから。これは弱さです。私の。

私はハッと我に帰った。こんなんで打ちのめされてんのは負けなのでは?わたしは所詮そんなもんなのかすでに知っていた事実を再提示されただけではないか?ありがとうおばさん。あなたの釘は無事刺さりました。その釘をどうするかはこれからちょっと考えます。出血多量で死ぬ前に。