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メイ
あやちゃん

親指のゴールデン・レコード

1977年、二機の無人惑星探査機が地球から打ち上げられた。名前はボイジャー探査機といった。ボイジャー探査機には、知的生命体や未来の人類が見つけて解読してくれることを目的とするレコードが搭載された。レコードには、世界のあいさつ、地球の自然音、115の画像、たくさんの音楽、言語、わたしたち人間の思考が収録された。

ゴールデンレコード。

われわれの星を記録したレコードは、時速六万キロで飛行する。どこかの恒星に着くのは四万年後だという。四万年後ってぜんぜん想像できなくて、なんか気持ちをもて余す。その時わたしはもういなくて、地球もあるのかどうかもあやしくて、でもその時レコードは誰かに届いているかもしれなくて、消えたわたしと星のことを、誰かが何万年かぶりに、思い出してくれる。レコードは星で、わたしで、いつかのあなたで、思い出で、思い出は星で、星はわたしで、あなたなのではないか。

あなたはスマートフォンの電源をつける。画面をなでて、ロックを解く。親指をフリックする。フリック、フリック、タップ、フリック、タップ、フリック。誰かの日常をながめる日常。(フリック)記録しても手にさわれない情報の性質の不確かさに不安になりそうになる。(フリック)でも、確かにここにいたってことを記録しておきたいと思う。(フリック)まだ見ぬだれかに見て欲しいと思う。親指で記録する。親指でもいいでしょ。

われわれの星を記録したレコードは飛行する。誰かに届くのは四万年後だという。

 

 

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1977年に地球からボイジャー探査機が打ち上げられて、約四万年が経とうとしていた。ついに探査機はある星に落ちた。探査機の墜落とともに、星に新しい命が生まれた。
生まれた知的生命体は、ある日海辺で探査機とレコードを発見する。はるか遠くの「地球」について知った彼らは、レコードの内容を元に星を繁栄させていく。気の遠くなるほどの時間をかけて出来上がった美しい星は、ついに探査機を打ち上げることができるまでに文明を発達させた。そこでは一つのプロジェクトが進められていた。「地球に向けてゴールデン・レコードを積んだ探査機を打ち上げる」というものだ。ゴールデン・レコードにはその星のあいさつ、自然音、画像、音楽、言語、思考……が収録され、最後にはプロジェクト責任者と、双子の娘の音声が収められた。
レコードを乗せた探査機は地球の方向に打ち上げられた。ずっと昔、人間が探査機を地球から宇宙に放ってから、もう何十万年が経とうとしていた。

 

 

(双子の姉妹)

妹 あー あー 聞こえますか。
(マイクを軽くたたく)
妹 これマイク入ってる?
姉 アーーーー うん、入ってる。
妹 (咳払い)地球のみなさん、こんにちは。聞こえますか。わたしたちは、このレコードを作った人の子どもです。妹です。
姉 姉です。……これさあ、絶対収録されないでしょ。
妹 いーから
姉 はいはい。えー、私たちはあなたたちのレコードを元に文明を発達させてきました。今、日本語で話していますが、これもレコードに収録されていたものです。探査機の一部とレコードは、ちゃんと大切に保管されています。
妹 このレコードは、わたしのひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんのひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんのひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんが、海で拾ったんです!
姉 そう、ずっと昔の人が海辺で拾ったらしいです。探査機がこの星に着陸したのは、地球から打ち上げられて約四万年ではないかという説が一般的なのですが、実際のところ、どういう想定だったのか聞いてみたいです。
妹 とにかくすごい距離だよねー。
姉 うん。
妹 ほんとうに、四万年も向こうのあなたに向けて同じようにレコードを送れるの、ほんとうに嬉しいです。ありがとうございます。この星に探査機が落ちてからさらに何万年もたってるし、宇宙空間のトラブルもあるかもしれないけど、ぜったいぜったい届いて欲しいです。地球に比べたら小さな星ですが、確かにわたしたちがここに存在していたということを、知って欲しい、なー。 ……あ。
姉 なに?
妹 他の星に届いた時用のメッセージも入れようよ。
姉 あー。
妹 ね。
姉 んー、じゃあ、カーターさん(注)の最後のメッセージでしめていい?
妹 めっちゃいい!
姉 スマホで調べてくれない?
妹 えぇーっと……。ハイ!
姉 ありがと。えー、っと。 「これは
(着信音)
妹 あ、ごめん!
姉 え?
妹 ちょっと電話出てくる
姉 はぁ?誰から
妹 かーれしー
(ドアの開閉音)
姉 「これは小さな、遠い世界からのプレゼントです。私たちの音、科学、画像、音楽、思考、感情を表したものです。私たちはいつの日にか、現在直面している課題を解消し、銀河文明の一員となることを願っています。このレコードは、広大で荘厳な宇宙で、私たちの希望、決意、友好の念を象徴するものです」……ありがとう。四万年後に、返事、待っています。

 

文:平野明 声:坂本彩音、平野明

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(注)カーターさん:アメリカ合衆国大統領、ジーミー・カーター。ゴールデンレコードにメッセージ文を書いた。ホワイトハウス、1977年6月16日。

(参考)