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ぱー
waimai
RisuPon
ぽ
メイ
あやちゃん

ひぐれの間

1階の洗面台で顔面の上の不要なものを落として、眼球に視力をはめる。今日もバイトがある。おおよそ思考に似たボサボサの髪を濡らして勢いを失わせて外に出るのがベターだと思っているのでそうする。ドライヤーで髪を乾かしながらうろ覚えの曲を適当な歌詞で割とちゃんと歌う。

 

階段で2階へあがるとすぐに小さい窓がある。ずいぶん前に隣の家がなくなって、そこん家の中庭が見えていた窓からは、空が見えるようになった。正確に言えば、空と元々家だった場所の空き地と家の前の通りとが見える。

 

隣の家がなくなったのは家の主人が亡くなったからだった。

 

誰かが死ぬと何かがなくなる。これは精神的な話ではなくて、目に見えるものの話。この世のある決まった場所に数年か何十年かずっとあったものが、その死に付随して移動する。あるいは、なくなる。仮に天国のような死後の世界があれば、そこで、あまり顔も知らない隣人はあの家に住めるんだろうか。

あの時期、ぼくの周りにはひどく「死」というものがあり、これが穏やかなものであってほしいと切に願った。せめてそうであってほしいと思った。とにかく、そう思った。

隣の家が取り壊されたから、今まで見たことなかった僕の家の側面が見えた。のっぺりしたひとつの面に四つ小さい窓があって、上に屋根が乗っている。真横から見ると小さい子が描いた家の絵をそのまま現実に建てたみたいな変な家だった。ぼくは長いあいだ変な家に住んでいたことに気づいたし、これからもしばらくこの変な家に住む。

隣の空き地に草が茂り、外の通りから猫の体が外から隠れるようになって、そこが彼らの遊び場になったころ、ようやく安心した。自分も喪失を許容する生き物だった。喪失には、二度と埋まらない形の空白には、そこを持て余すように遊びまわる感情が長く茂る草に隠れ、穏やかだと言えなくもなかった。

なんだかもう随分寒くなったし、陽が落ちるのも早い。ぼくはまだのんびりとした日暮れを見ているのに。