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ぱー
waimai
RisuPon
ぽ
メイ
あやちゃん

怖くないおばけを探しているようだ

こんな曖昧な質問、どうしたらいい。制作への「ぼんやり」、どうしたら。自転車を漕いでいる時、お風呂に潜って息を止めてる時、人混みに疲れても歩き続けている時、湧いてくるクソみたいな思い。何がわからないのかもわからない。得体のしれないぼんやり。息苦しい。でも誰かに話したら楽しくなって、そんな「ぼんやり」無かったことになりそう。それは彼がかわいそうだから。

カメラを設置し、その前に座って20分はなし続ける。

カメラに向かって積極的に例え話をする。物体が怖い理由を話している。

カメラに向かって今日買ったzine(「糖度がメロンと同じ砂利」sentakukudamono)を自慢する。

そう、カメラに向かって。撮影されるわたしは、動画を再生する別のわたしと会話しようとしている。もちろんこれは作品ではない。最近やってる動画日記の一片である。

 

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福田尚代さんの個展「山のあなたの雲と幽霊」、行ってきた。回文と美術作品をまとめた、著書「ひかり埃のきみ」を買った2年前から、ずっと個展に行ってみたくてしょうがなかった。機会が巡ってきた。念願叶ってうれしい。胸を高鳴らせて会場へ続く扉を押した。

展示をみた後、死んでしまいそうになった。ふらふらした足取りで会場を出た。怖さが体をぱんぱんに満たしていた。崩れないように地面を一歩一歩踏んで駅へと向かう。体が揺れるたび、その怖さ(のようなもの)は外気に滲み出て、それが周りにバレないか気がかりだった。ああこの怖さ、はじめて「ひかり埃のきみ」を読んだ後の怖さと全く同じだ、と思った。

回文とは、上から読んでも下から読んでも同じ音で読める言葉の束だ。おなじみのだと、トマトとか、竹やぶ焼けた、とか。わたしの知っている回文って、こういう手に収まるような小さなものでしかなかった。でも福田さんの回文は想像を超えて長いのだ。短編小説になりそうなぐらいのものもある。短いのもあるけれど、いずれにせよ全ての作品が、物語をなみなみと含んでいる。

終わりがないものが怖い。メビウスの輪も怖いと思う。折り紙を細く切ってくるりとねじってノリでくっつけたら、その不器用なつなぎ目のでこぼこの感触に安心するけれど、本当の意味でのメビウスの輪をなぞったら簡単に発狂してしまうだろう。始まりがあれば終わりが必ずあるものだと思って生きてきた。わたしは直線的に未来をみているのだ。時間はまっすぐに進んで、帰ることができない。

福田さんの回文、特にとても長い作品をはじめて読んだ時、言葉の中で迷子になってしまった。回文は深い森だった。進んだら、迷子になる前に戻ってこなければいけなかった。言葉が一個一個増えていくたび、意味が膨らんで膨らんで怖くなった。言葉が増えるということは、それを回収しないといけないのだ。一歩進んだら、それ以上のただしさで引き返さなければいけないという責任がある。確信がなければ踏み込んでいけない。歩き始めるのは簡単だ、でも戻ってくるのはとても難しい、そんな森。湿度が高く、鬱蒼として、しんとした森。

その森に踏みならされた道があって、それが福田さんの回文だった。適当に読んでは迷子になってしまうから、ひらがなを一つ一つ辿っていく。幼児のように舌に乗せて発音してみる。強く繋がれた手を離さないように、薄眼を開けて見た、森の内側。それは本当に、息を飲むぐらい美しかった。

個展は、内包された物語や秘密を、回文の怖さを和らげて展示しているようだった。でも手に負えるように見えて、わたしには全然、手に負えなかった。全然。

「芸術作品は何かしらの祈りだ」という言葉に妙に反感を持ってしまう。なぜならわたし自身が「祈り」のもつ意味を知らないからだ。その言葉のもつ意味の巨大さに唖然とするだけだ。手に負えないのだ。せいぜい表面の意味を削りとって、味わった気になるだけだ。

手に負えないことが怖い。だから福田さんの回文が怖かった。でも違うニュアンス、言葉ではなく立体作品、既存のものに秘密を宿すという方法が取られたこの展示は見やすかったし、うまく飲み込めた。はずなのに、やっぱりとんでもないエネルギーが隠されてあって、飲み込んだ後に急に腹で膨らむパンみたいに、胸をつっかえさせた。そうしてぐらぐらと泣きそうになりながら、体内にすでに入り込んでしまった「怖さ」や「祈り」のようなものを強く意識した。

すごくいい展示だったな。

 

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芸祭に参加していないので、何もないとこんなにも時間はゆっくり流れるのか〜と思いながら生活をしている。他の時間は(空白を埋めるように)本を読んでいるか、ぼそぼそ制作するか、外を眺めている。

 

怖くないおばけを探しているようだ
そんなのもうやめよ おばけは怖いのだから
怖くないおばけを捕まえて ペットにしようとしてるんでしょう
そんなのもうやめよ おばけがいつまでも 半透明な真夜中が似合うように

 

 

2018.10.27 鮃