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あやちゃん

楽しい消費活動 / ピアス

給料日というこの世で一番ワクワクする日、お金をおろして財布を潤わせ、電車に乗り込む瞬間はマジで無敵な気分になれますね。

さてお金を握りしめたあなたはどこへ向かうでしょうか。ここは東京。なんでもある、どこへでも行ける街だ。ギャラリー? 美容院? 本屋? 服屋? 劇場? はたまた飛行場へ行って、もっと遠くへ行こうか。

消費活動は本当に楽しいよね。そのままその人の人生になると言っても過言ではない。私のために吐き出された膨大なレシートの上に今、こうして立って生きているけれど、間違っても履歴は見ないでね。

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「心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる」という松井秀喜選手の座右の銘を聞いたことがあるだろうか。有名なので一度は耳にしたことがあると思うが、私の場合、ピアスを開けたら行動も習慣も人格もすっ飛ばして、運命が変わってしまった。変わってしまった気がする。気のせいでなければ、それもとても良い方向に。

ピアスをじゃらつかせている両耳が、開けすぎて欠けてしまった部分もある耳が、私の知らないことを知っているようで羨ましいと思った。それで、勇気も決意もなかったんだけど、何の気なしに「ピアス開けたいかも」と言ったら、言葉はきれいに掬われ瞬時に可決され、あっという間に次の土曜日に開ける予定が組まれた。約束の土曜日はバカみたいに暑くて、午後6時でもまだ明るくて、風が夏のようだった。街はひどく混んでいて、人混みをくぐるようにしてピアス専門店へ向かった。金色の16ゲージのピアスをひとつ買った。

手際よく、消毒の準備や、ニードルの用意をしているのを、耳を冷やしながら見ていた。開けるのはヘリックスという、耳上部の内側に折れ曲がった軟骨部位に決めた。感覚がなくなるまで耳を冷やすと、針の先が耳に押し付けられ、刺さり、一息に向こう側へ抜けた。開けた痛みよりも、血が耳の中に流れていく感覚が気持ち悪くて貧血になりそうだったが、その血もいずれ止まり、代わりに金色の粒が居心地悪そうに収まり、私の初ピアスとなった。買ってくれたオレンジジュースをすすりながら、ニードルの細い穴を覗くと、自分の軟骨のかけらが詰まっていた。透き通るように白かった。「自分のDNA持って帰る?」とその人はコーラを飲みながらふざけた感じで言った。店を出ると外はもう夜だった。駅までの道を並んで歩いた。脳天に上がってくるようなじんじんする耳の痛みが、でもちょっとうれしかった。「や、ピアスって開けた後が痛いね」「でしょう」「中学の時、蛇にピアスに憧れて将来は絶対スプリットタンにするんだって決めてたけど」「ははは」「無理だわ、これは」

ピアスの存在は全然私に馴染まなくて、そこだけちょっと浮いているような感じがした。もさもさの髪の中で、そこだけ光を反射して、キュッと丸くて、強くて、威厳があってキュートだった。そして思えば、開けてくれたこの人もピアスのようだった。そこだけ光を反射して、キュッと丸くて、強くて、威厳があってキュート。こだわりじゃなくて、スタイルがあって、きっとどんな人混みにいても、然るべき人に見つけられるんだと思った。

そこから、金色のピアスに似合いたくて、私は私を変えようと思った。スタイルを確立しているその人の前で、スタイルのある自分でいたいと思った。染まるんじゃなくて、個の強さが欲しいみたいな気持ちで。私は何が好きで、何を愛していて、何を知りたいんだっけ。どこからきて、今どこにいて、どこへ行きたいんだっけ。無意識に押しやっていた好きの気持ちをひっくり返して、洗って、分別したら、もうないんじゃないかって思っていた道筋が、白い軟骨のようにぱらりと出てきた。本をまた読み始めて、かわいい靴を買って、文章を書き、できるだけコンタクトをするようになった。風呂場でピアス周りを消毒することが新しい習慣になって、夜眠る時はさみしくなくなった。私には私が付いているという心強さだった。

弱気になると鏡の前でこっそりピアスを覗く。そしてこれになりたいのだと思い出す。

 

 

2019.06.27 uo