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ぱー
waimai
RisuPon
ぽ
メイ
あやちゃん

魚の歌

わたしが文章を書かなくとも、演劇をしなくとも、誰も困らない世界にいる。書く人、演劇をする人はごまんといて、毎日毎日、新しい作品がこの世に生まれていく。わたしが書くのを諦めて腐ったって誰にも見向きもされない世界にいる。すぐさまわたしと言う名の腐葉土の上から新しい命が芽生えて、世界のほつれを修復する。そんな世界にいる。
いるのだと分かっているのに、どうしてわたし、性懲りも無く何かを生み続けようとするのか? 書き、演じ、歌い。私たちは、踊り、描き、撮り、縫い、導き、続けているの。

海の話をする。
わたしは思う。海には本当は魚なんて一匹もいないのではないだろうか。ただ栄養が静かに満ちて波を立てているだけなのだ。人間が糸を垂らした瞬間、海はぷるんと固まって輪郭をもったツヤツヤした一匹になる。手を入れるだけ、海はぷるんぷるんと何かになる。誰もいないとき、海は黙っているけれど、よく耳をすましてみれば、クジラにだってなれる豊かな栄養が、宙に引き上げられるいつかを心待ちにして歌っている。
わたしの生きる世界も海中のようだと思う。
書いて欲しがっている物語がある。見つけて欲しがっている歌がある。わたしは彼らの存在に輪郭をつけるために何かを作る。誰かのためでも自分のためでもなく、生まれたがっている彼の声のために作る。他の人の魚が良く見えても、わたしの両手にしか掬えなかった海の形がある。
海に向かって釣竿を振る。ひゅんと軽い音がする。

 

2018.12.08 鮃